旅人 国定竜次〈上〉―山田風太郎傑作大全
風太郎の『旅人 国定竜次』を読みました。やはり古書店で購入したもので、現在ではこちらの廣済堂文庫の方が入手しやすい筈。
風太郎は、大量の時代小説を書いていますが、正統派の武士道を描く作家ではなく、そこから一歩離れた世界を主に書いています。
ましてや、どちらかというと負けた側に共感を抱くタイプなので、所詮は世間の裏街道になるやくざの世界は得意そうですが、意外と数は少なく、長編では『
武蔵野水滸伝』と、この『旅人 国定竜次』ぐらい。
いずれも、上下2巻という風太郎のものとしてはかなり長いものになるのですが、正直に言って成功を収めているとは言い難いのが面白いですね。
ただ、『武蔵野水滸伝』の無茶なずっこけぶりに比べると、こちらの『旅人 国定竜次』は割合にまとまっています。
時代は明治維新のまさにその年で、最初はそうした維新騒ぎとは関係なく(『
魔群の通過』にでてきた天狗党は絡んで来ますが)、やくざ・ばくち打ちの世界での竜次の相当に喧嘩っ早くて、おっちょこちょいな冒険が語られます。
筆致は明るく楽しい雰囲気なのですが、それが下巻の半ばぐらいから、薩長と幕軍の間の政治的軍事的な抗争に竜次が巻き込まれてから、どうもおかしくなっていきます。
これは、『
御用侠』にも一脈通ずるところがあり、『御用侠』を読んだときには、「この作品は風太郎としては異色なモノだ」と感じたのですが、彼の本質の内には紛れもなく、こうした物語に対する嗜好があるのかも知れません。
忍法帖でも『
飛騨忍法帖』という作品があって、時代が同じなので、やはりどこか雰囲気が似ています。
幕末維新の動乱は権謀術数渦巻く世界で、それは戦国期でも同じなのですが、時代が下がっているためか、幕末期の方が陰険というか凄惨な性格を持っていて、そこに投げ込まれた野性的で単純な性格の主人公はどうしても酷い目に遭うことになるのかも知れません。
股旅もので、連作にでもしていれば、相応の人気シリーズに出来たのでしょうが、風太郎の文筆商売のやり方はそうした事を潔しとはしていませんので、この作品はこれで決着が付いています。
漫画ですが『浮浪雲』なども当初は幕末の品川を舞台にした物語で、いずれは呑気な性格の主人公が幕末動乱の中でどの様な身の処し方をしていくのかという展開になるはずでしたが、ご存じのようにもはやあの作品は幕末も動乱も関係ありません。
あれはあれで、ある意味、おとぎ話のような安らぎをもたらしてくれるのですが、風太郎の進む道とは違う、という事なのでしょう。
入手しにくい事もあり、山風ファン以外にはあまりおすすめ出来る作品ではないのですが、もちろん天才的なストーリーテラーが上下2巻に渡って綴った物語であり、スピーディで波瀾万丈なストーリー展開は飽きさせません。
流石はプロの娯楽作家と感じさせる点です。
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